コーヒーの健康効果、もう少し深ぼる


別の意見も知りたい


以前のブログで、コーヒーの健康効果について書かれた本をご紹介しました。


CGA(クロロゲン酸)というポリフェノールの一種を多く含むコーヒーであれば身体に有益なことが多く、カフェインの代謝が遅い人であっても一日2~3杯は飲んでも大丈夫、カフェインレスでも効果あるのでむしろ飲むべき(条件によるが)、という内容。


そうはいっても、別の意見もあるかもしれない。。

少し前に「コーヒーを水代わりに飲む」とおっしゃっている方がいて「本当に大丈夫?!」と気になる自分がいたので、コーヒーと健康との関係についてもう少し詳しく調べてみることにしました。

今回参考にしたのは

「コーヒーの科学 ー「おいしさ」はどこで生まれるのかー / 旦部幸博著(講談社)」2016年2月20日第1刷発行


この本によると、

1、コーヒーには健康に良い面と悪い面の両方がある

2、いくら健康に良い面があっても、飲み過ぎは体に毒

3、どこからが飲み過ぎでどこまでが適量かは個人ごとに異なる

という三カ条が、まず前提にあると記載されています(コーヒーに限らずですが)。


そして、大切なのは「コーヒーを飲むとヒトはどうなるか」ということであって、これを「コーヒーに含まれる◯◯という成分に××という作用がある」という話と混同してはならない。

健康に良いと言われる成分も、逆に有害な成分も、含まれる量が少なければコーヒーを飲んで同じ作用が出るとは限らないわけで、そういう薬学的発想ではなく現実的に「コーヒーを飲む→ヒトはどうなるか」という本題が大事ということです。

1000報以上ですって


当書によると、医療の分野では1990年代以降、医師の個人的な体験や慣習ではなく「エビデンス(科学的根拠)に基づく医療(EBM)」という考えが普及しているとのこと。

そのエビデンスを提供するのが「疫学」といわれる「ある要因と病気の発生の関係をつきとめる学問」。

現在、医療のレベルで最も信頼できる情報の根拠となるところです。


そして、コーヒーだけですでに1000報以上の疫学論文が発表されているそう。

「コーヒーの科学」ではコーヒーと健康との関係について疫学研究ををもとに解説しているのですが、もちろん健康に関することだけでなく、コーヒーの構造から品種、歴史、味、成分、焙煎、抽出…とあらゆる切り口で科学的根拠を交えて説明されていて、しかもどれも深くておもしろかった。


実は、著者である旦部幸博さんの本職は、がんに関する遺伝子学や微生物学を専門とする医学博士。

『研究者とは言っても自分の専門分野以外に関しては素人同然』の彼が、『毎日淹れているうちにすっかり深みにはまってしまっ』たコーヒーに関して、そこまでやる?と思うほど研究を深められていて、ただただ感服。

古い専門書や海外の学術論文など『気付けば入手した文献はいつしか千本を超えました。』って、それのどこが素人?!の域。

客観的な分析によって新たな事実を解明することを得意とする研究者で、しかもコーヒー業界と何の関係もない方。

純粋に好奇心で知識を深めていらしたんだろうなと勝手に思っています。

(『』内引用:「コーヒーの科学」)

以上を踏まえて、カフェインが働くメカニズムを分子レベルで説明するところは読み飛ばし(むずい)、私が「参考になった!」と思う内容をまとめていきます。

コーヒーで運動能力は上がるのか?


カフェインによって中枢神経や筋肉の収縮力に影響する可能性は昔から指摘されてきたそう。

とはいえ、今のところドーピングの対象とまではなっておらず「通常範囲の摂取であれば競技成績に影響するとはいえない(世界アンチ・ドーピング機構などの専門機関」)という意見が主流。


そんな中、「筋肉疲労の軽減」の効果は比較的信憑性が高いと思われているようです。

筋トレ前にカフェインを摂取すると、例えば腹筋20回が限界の人でも21回、22回…と上限が伸びるとのこと。

とはいえ、筋トレ効果そのものの効果は同じで、初めから腹筋回数を決めて行う場合は特に変わりはありません。

コーヒーは病気のリスクを減らすのか?


まず、コーヒを飲んだヒトに現れる作用として、一回の飲用後に現れる「急性作用」と、ある程度の期間にわたって飲み続けるときに現れる「長期作用」があります。

コーヒーを飲むことでがんや糖尿病などになるかならないかについては、後者のうち「長時間飲みつづける時の疾患リスクの増減」が取り上げられています。

そもそも、「コーヒーが××を予防する」といったような記事は不正確で、「××のリスク低下」と書く方が正確とのこと。コーヒーに限らずたった一つの要因だけで病気を発症すると決まる例は少なく、例えばコーヒーを飲用した人全員が「××を予防」を実感することはないからです。

また、「コーヒーを飲む人は(飲まない人より)◯◯のリスクが低い」は正確ですが、「コーヒーは◯◯のリスクを下げる」と書くことはできないそう。(そう書いてある記事は、信憑性が低いともいえそうです。)


因果関係を立証するには、「ヒト介入試験」という方法でより精度の高い調査が必要なのですが、長期にわたって被験者のコーヒー摂取をコントロールしがんの原因を証明するという、いわば「人体実験」することは倫理的にも問題があり、現実的に実践が難しいのだということです。


なので、この情報に限らず、コーヒーの疾患リスク低下については「不確実な予防効果」に過ぎないのであって、「治療効果」とはまるっきり別物であることを認識しておくことがまず大切です。


それを踏まえてようやく健康への影響


まず、「2型糖尿病」のリスクを低下させるかについて。

2002年オランダの研究者の発表以降、日本を含む大規模疫学調査のほぼ全てでコーヒー飲用者で2型糖尿病の発症リスクが低いという結果が発表されています。2009年に行われたメタ解析では、摂取量が1杯増えるごとに発症リスクが7%低下すると試算されていますが、この「7%」という数字が微妙で意味のある増減と言えるのかについては見解が分かれるところのようです。

また、疫学調査ではカフェインレスコーヒーでも効果がみられたこともあり、この糖尿病リスク低下がどの成分によるものなのかは判っていないそう。

次に、コーヒーと「各種がん」との関係。

がんの種類によって影響は異なりますが、最も研究が進んでいるの肝がんの発症リスクは、コーヒー摂取量が一日1杯増えるごとに約20%低下があると総括されています。コーヒー飲用者では、肝機能の指標となる酸素量や肝硬変に伴う線維化にも改善傾向が見られ、その活性本体はカフェインとは別の成分と考えられているようです。

でも、これ以外のがんについてはまだはっきりしているとは言い難いそう。その上、膀胱がんについては一日1杯で3~5%のリスク上昇というメタ解析の結果があり、カフェインによるものだと疑われています。

1970年代以降、コーヒーが「心血管疾患(CVD)」のリスク「上昇」と「影響しない」という報告の両方が相次ぎ、論争が巻き起こっていたそう。

この矛盾の原因は、調査方法の違いによるところが大きいようですが、はっきりと判っていないのが実情のようです。

その後の研究では、コーヒーを飲むか飲まないかではなく、健康な人が適量(一日3~4杯)を飲む場合に心血管疾患のリスクが低下するという結果が。全く飲まない、または飲み過ぎによってもリスクは上がると言えそうです。


その他の疾患、例えばパーキンソン病との関係についてはコーヒー一日3杯で25~30%程度のリスク低下が報告されており、カフェインがパーキンソン病の原因に作用することが判明してから、なんと抗パーキンソン薬の開発にまでつながったそうです。

結局、善なの?悪なの?


そもそも、元々の基準となる発症率は病気によって異なり、その後の治療法やそれによって助かる確率も何もかも違う中で、単純比較は難しいというのが結論。(結局!!)


なので当書では、一つの考え方として病気の中でも「死亡リスク(死に至る重篤なケース)」を指標にするやり方が提唱されています。

2012年、のべ40万人、13年間の追跡を行ったアメリカ国立衛生研究所の研究結果によると、コーヒーを飲む集団の方が全く飲まない集団に比べて調査期間中の総死亡率が低下するという結果を発表。一日4~5杯飲むグループが最もリスクが低く、がん以外の死因(心疾患、脳卒中、肺炎、事故など)でリスク低下が認められたそう。2014年の日本の調査でも同様の傾向が見られたそうですが、もしこの見解が正しく、仮に日本人全員が今よりもコーヒーを1~2杯多く飲むとしたら「健康長寿社会」に近づくかも。ですが、心疾患や脳卒中などに変わって別の死因が上位に来るということなのかもしれませんね。


カフェイン中毒


「カフェイン中毒」とは短時間のうちに大量にコーヒーを飲んだことによって、望ましくない生理反応が身体に現れること。

具体的にはカフェイン250mg以上を摂取し、神経過敏や顔面紅潮などの12の診断項目のうち、5つ以上に当てはまる場合をいう(※)そうです。

※…「DSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)」より(コーヒー1杯あたりカフェイン100~200mgに概算している)


個人的には「カフェイン中毒」という言葉の意味を「依存」と捉えていたのですが、「急性の中毒症状」なのだと改めて理解できました。

急性中毒といっても通常は何もしなくても自然に快復し、目立った後遺症もない。

コーヒーで致死量を摂るには50杯以上を一気飲みしなければならない計算になり、大量に飲んでも平気な人や1g摂取しても亡くなるケースなど稀にいますが、コーヒーが原因というよりも複合的な要因が考えられるそう。これまでのところ、コーヒーの大量飲用による死亡例は報告されていないようです。

カフェイン離脱(カフェイン依存)


コーヒーを常用する人が、半日から2日後(離脱時)にカフェインを求めること(渇望)を「カフェイン離脱」と呼び、頭痛や集中力の低下、疲労感、眠気などの症状があるそうです。

一般的に一日の摂取量が400mgを超える常用者にみられるようですが、アルコールや他の薬物依存に比べるとかなり軽微で、意志の力で自制可能な範囲。1~4日程度で消失することがほとんどだそうです。

麻薬や覚醒剤はもちろん、アルコール依存やタバコなどと比べてはるかに安全、というのが現在のカフェイン離脱に対する一般的な見方のようです。


結論、コーヒーの適量とは?


結局、一日にどのくらいまで飲んで大丈夫なのか?


個人差があるのはもちろんですが、あくまで「一般論」として

『・健康な成人の場合、コーヒー3杯以上を一気に飲むと、急性カフェイン中毒の症状が出ることもあると言える

・長期間飲み続ける場合については少なくとも一日4~5杯くらいまでなら、疾患リスクへの影響はあまり考えなくてよい』

とのこと。

ただし、これはそれ以上が危険という意味ではなく、そんなに多く飲む人のデータが少ないため、現時点でははっきりしたことが言えないにすぎないそう。


とはいえ、繰り返しになりますが個人差があるのも事実。どんなデータも過信しすぎず、身体と相談しながら自分にとっての適量を探っていくべきかと思います。


特に注意が必要な方


多くの人にとっては問題は少ないとはいえ、特に摂取に注意が必要な場合もありますので、最後に触れておきます。


・妊娠初期の女性

妊娠初期〜中期(8~28週)にカフェインを多量に摂取し続けている人は流死産のリスクが高い。ただし、もともと正常な妊娠でも約15%のケースは自然流産することが知られており、コーヒー一日2~3杯以内ならリスクに差がないという報告がほとんどとのこと。


私も二人の子どもがいますが、妊娠中はほとんどカフェインレスコーヒーを飲んでいました。たまにカフェラテ(カフェイン入り)も飲んでいましたが、もちろん出産やその後の成長に問題はなく母子ともに元気に過ごしています(あくまで一例ですが)。

・子供〜青少年

WHOにより、カフェインの子供への安全性の検証は十分に進んでいるらしく、カフェインを代謝する能力は子供でも成人と変わらないそうです。ただし、体の小さい子供の方が、体重あたりのカフェイン濃度が高くなるため急性作用が強く現れがちであることに注意が必要です。

・精神疾患のある方など

コーヒーによって、うつ病の発症リスクが下がるという報告は出ています。

その一方で、カフェインは不眠やパニック発作などの症状を増悪したり、抗うつ薬に拮抗して治療を妨げることも知られているそう。

その他、胃炎治療中の人や重度の肝機能低下がある場合もカフェイン摂取は避けるか、担当医に相談すべきとされています。

コーヒーとの付き合い方


コーヒーが毎日の生活に欠かせない存在になっている方にとって、健康との関係は少なからず気になる問題だと思います。私もその一人なので、介入試験が難しい分野でまだ健康への影響についてはわからないことも多いなか、現時点での客観的データに基づいた解説を知ることができて個人的には満足しています。

カフェインにはリラックス効果があるため、精神的なストレスが溜まっている場合は無意識にコーヒーを飲む量も増える傾向にあるそう。

人がコーヒーを必要とする理由は様々なのだと思いますが、個人的には何かしらの「効果」を期待するのではなく、純粋にコーヒーを愉しんで飲みたいと改めて思いました。


現在も研究は進んでいますし、データは日々更新されているはず。

どんな情報も過信しすぎず、ぜひ自分にとっての適量を探ってみてくださいね。




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コーヒーの科学 ー「おいしさ」はどこで生まれるのかー / 旦部幸博著(講談社)


おすすめ度(※) ★★★★☆




※あくまで主観的なものです